トレーナーインタビュー

前回の定期演奏会の1週間ほど前、須田先生が全奏に途中から参加してくださっていた時、私たちの演奏があまりにひどく、須田先生は部屋を出て行ってしまいました。

-本番直前にお叱りを受けたじゃないですか、そのときに何を感じたかを改めて教えてください。

須田さん:フォイヤーは以前よりそんなに音楽が好きじゃないと感じてしまうね。昔の方がもうちょっと馬鹿みたいに音楽が好きな人が多かったと思う。それに、みんながもっとできるのを知っているし本当はそれだけの能力を持っているのに、それを出すのを忘れちゃっているっていうのは衝撃的だよね、ただ弾いているだけっていうのは。音楽家っていうのはプロも アマチュアも舞台になったら一緒なんですよ。それのくくりはなくて。そこにお客さんを呼ぶっていう行為も一緒で、時間と空間を共有してくれるお客さんに対してやっぱりきてあれ?? て思わせたら、お客さんが減るだけだからね。それだけアマチュアのオーケストラなのに固定客がそこそこいるなんてね、考えられないことだよ。別に長い歴史があるわけでもなく、資金援助は受けてない(特定のバックがいない)のに。私はアマチュアのオーケストラっていくつか手伝いに行ってるけど、自分が弾けりゃいいやってお客さんを呼ばない団体とかもあるわけよ。舞台上の方が人数多いみたいな。それで満足するわけよ、そういう人たちって。 なんのために音楽をやってるのって思っちゃう。ただお金を払ってたまーに集まって練習して、で、一応本番の日を迎える。

前田さん:フォイヤーは少なくともそこが目的じゃないよね。

須田さん:自分たちが楽しんでいない限りお客さんも楽しむことはできないんですよ。聴き手を楽しませることが一番大事なことです。でもそれってすごい忘れやすいことだよ、特にプロになると危ないんだけど。それこそ間違えないようにとか、お客さんがいる以上、どこまでいい空間を与えるか、ということを考えた時に、本番直前のあの日の雰囲気は最悪だったでしょ。

前田さん:最近のフォイヤーは守りに入るよね。それで原点を忘れる。

須田さん:私はいまだに、ここはこういう音色で弾きたいとか思ったところを危ないから安全な指使いで弾こうなんて言って弾くのがほんとに嫌いで。いいじゃん、ちょっとくらい怪我負って弾いたって、と思って弾いてるから。

前田さん:それがなかなかみんな思えないんだよ笑

須田さん:そう、そう。フォイヤーの演奏が楽しくってしょうがないと思ってるお客さんが今までこれだけ来てくださっている。ただ守りに入って淡々とその曲を演奏するってなっちゃったら、多分お客さんは減ると思う。あぁ来てよかったと思うような、すっきりして帰るみたいな。そういう空間を創ってほしいと常に思ってる。だからこの間フォイヤーの演奏会に来てくれた子が「また聴きに来たいと思いますね、あのオケは。」て言ってくれてさ。しめしめ と思ったね。

前田さん:それがフォイヤーの原点だよね。

須田さん:うん。だから先人たちが培ってきたものを壊しちゃダメなんだよ。

-なんか、お客さんっていろんな人がいるじゃないですか。クラシックファンの人もいれば、ふらっと来る人もいる。そういう演奏会を開く中で、私たちやお客さんの中でも曲に詳しい人は曲を知っているけど、クラシックを全く聴いたことがない人さえも感動させなきゃいけないっていうことを忘れちゃってたら、もう音楽をやっている意味はなくなっちゃいますよね。

須田さん:そうそう。現代曲とかアニメの曲を弾こうとも、オケっていいなって思わせればいいじゃない。音楽っていいな、クラシックって結構かっこいいじゃんって思ってくれたらそれでいい。

前田さん:大切なのはやっぱトリップさせることだと思うんだよね。ヴェルレーヌっていう詩人がティボーに、音楽は人が時 間を忘れる為にあるんだって語ったのが、「ヴァイオリンは語る¹」っていう本に書いてあったんだけど。それがまさにそのこと。いい映画を見たりするとトリップするじゃん。それと一緒。たった2時間で人はトリップできるんだよ。だからやっぱり、一年生だろうが大人だろうが、音楽家だろうがアマチュアだろうが、トリップを大切にすべきだよね、それは。音程が外れようが当たろうがトリップ出来るのは素晴らしいことだよ。

須田さん:全然弾けないのに、一生懸命音楽をしようとする。私はもうそれでいいと思うんだよなあ。

前田さん:あの甲子園で負けた球児がさ、泣きながら球場の砂を袋に入れるのも、感動するじゃん?そういうものでもいいんだよ。最悪。だから音程一個も当たってなくても、感動させられたらそっちの方が偉いと思う。

須田さん:うん、そうだね。それで演奏会を破壊しちゃダメだけど。

前田さん:音楽をやる理由っていうのは寂しがり屋だからかなあ。なんだかんださ、他人を笑わせたいとか、いたずらしたいわけじゃん。それで、なんかいいなって思ったり喜んだりしてほしいとかあるじゃん。面白い演奏をする人ってだいたいみんな会話がいたずらなんだよ、すぐギャグを言ったりダジャレを言ったり。普段から頭の回転が早いタイプか、シャイでも楽器を持ったら急にドーンと勇気を持って一発目の音を入れてくれるタイプか、どっちかだよね。

-あとは、フォイヤーで音楽家と一緒に学生が舞台に乗ることには、例えばどういう価値があると思いますか。

須田さん:何をすると面白い音楽にできるかとかを、全員は難しいかもしれないけど、 やっぱり多くの人が感じ取ってくれやすいというのはあるよね。

前田さん:ワープしてあっという間に知れるっていうすごさはあるよね。それに準ずる音楽を楽しんでやる人ほど、 感じ取ってくれる。あとは、 みんなが中途半端なものじゃなくて、ちゃんとした良いものに触れることができる。

須田さん:そうそう!例えばもう顔つきから違うとか、出る音がもうレベルが全然違うとか、 体の動かし方とか。音楽家のそういうものを感じ取るのも大切なんじゃないかと思う。

前田さん:こっちも手抜きしないからね。

須田さん:しかも意外と音楽家はみんないろんなものを抱えながら仕事をしていて、いざ本番になって、良いオケだと思うと本気を出してくれるっていうこともあるよね。それって貴重な時間なんだよね。だからこそ、現役があまり感じる能力が育ってないと、すごくもったいないことになるっていうか。感性乏しいんですよ。

前田さん:そうだね。でもさ、 感性を育てるっていうのは難しい話だよね。例えば感性を育てなきゃってさっちゃん(須田さん)が思ったらさ、何する?

須田さん:とりあえずうまいもん食わせる。

一同:笑

1.ジャック・ティボー(1992)
『ヴァイオリンは語る』白水ブックス

(2017年度賛助会員会報より)

前田 尚德 | Vn.2歳半よりヴァイオリンを始める。1998年東京大学入学、翌年桐朋学園音楽大学カレッジディプロマコース入学。2002年サイトウ・キネン小澤征爾塾「森のコンサート」でコンサートマスターを務める。2000、01、02年度、小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトモーツァルト歌劇「フィガロの結婚」、「コシ・ファン・トゥッテ」、「ドン・ジョバンニ」出演。サイトウ・キネン・オーケストラメンバーによる小沢征爾オペラ・プロジェクト2003特別公演出演。ヴァイオリンを原田幸一郎氏、室内楽を原田禎夫氏、岡田伸夫氏に師事。ソリストとして東京ユニバーサルフィルハーモニー管弦楽団と共演、現在東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、大阪センチュリー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団のゲストコンサートマスター等多方面で活躍中。

須田 祥子 | Va.6歳よりヴァイオリンを始め、桐朋学園大学在学中にヴィオラに転向し、98年同大学を首席で卒業。これまでにヴァイオリンを室谷高廣、室内楽を名倉淑子、ヴィオラと室内楽を岡田伸夫らに師事。97年、第7回日本室内楽コンクール、99年、第7回多摩フレッシュ音楽コンクール、99年、第23回プレミオ・ヴィットリオ・グイ賞国際コンクール、2000年、第2回淡路島しづかホールヴィオラコンクールの全てのコンクールで第1位優勝。皇居内御前演奏会、トッパンホールランチタイムコンサート、日本演奏連盟リサイタルシリーズ、FMリサイタル、B → C、ヴィオラスペース等数多くの演奏活動や、ソリストとしても多くのオーケストラと共演している。特に、「日本の作曲家2001」及びアンサンブル金沢との演奏など、NHK-FMでも紹介され高い評価を得た。国内の数多くのオーケストラに首席として客演している他、宮崎音楽祭、鎌倉ゾリスデン、サイトウ・キネン・オーケストラ等に度々出演。2015年5月の「題名のない音楽会」及び2016年11月の「らららクラシック」のヴィオラ特集、同月の「題名のない音楽会」の「弦楽四重奏特集」に出演。また2016年1月には「報道ステーション」で白川氷柱群の前からヴィオラだけのソロ演奏が生中継された。現在、東京フィルハーモニー交響楽団首席奏者、SDA48主宰、アクロス弦楽合奏団メンバー。洗足学園大学では非常勤講師を務め、後進の指導にもあたっている。