S級のあほ

Saho Karaki

社会人/ファゴット

フォイヤーに入ったきっかけは?

姉がフォイヤーの団員で、私がファゴットという希少人種だったこともあり何度か声を掛けてもらいました。
一方私は、世間の大学一年生の例に漏れず、バスケサークルやゆるい飲みサー、バイト、勉強などキャンパスライフを謳歌する気満々、オケなんてやる気なし!という感じで、姉の誘いも尽く断っていました。
4月も中旬過ぎの新歓も佳境に差し掛かってきた頃、また姉からの誘いを受けて根負けし、一度だけならという事で練習を見学しに行くことに。
優しく可愛らしい団員のおねーさんたちにご飯行く?コーヒー飲み行く?またおいで!と誘われ続ける内に、断るタイミングを逃しオーディションまで受けることに…(笑)
有難いことに受かってしまい、さぁ大変…!
悩みましたが、姉が日々充実した大学生活を送っている姿を見ていたので少し憧れがあったのと、子供の頃から何だかんだ離れられなかった音楽と真剣に向き合う最後のチャンスかもな…と思い入ることを決めました!

自分はどんな人だと思う?

S級のあほ…ですかね…
名前もさほなので、s級の”aho”…なんつって。

■ 他の団員から見た「さほ」

「とてもマイペースさん。食べるのが遅く、皆が食べ終わる頃にまだ9割残ってる。買い物も遅く、ピアス1つ選ぶのに30〜40分は吟味し続ける。さらには歩くのも遅く、さほの後ろにはいつも行列ができる。」
(フルート/社会人/女)

キャラクター、動物などに例えると?

周りからは、ペコロスとか芽キャベツと…
いつか煮込まれるんじゃないかとヒヤヒヤです。

フォイヤーに入ってから今までで変化したことは?

”テンポ”って面白いな!と思えるようになったことかな。
私は昔から”規則的に”とか”一定の”とかが苦手な感覚人間で、音楽においても”テンポを保つ”という事にめちゃめちゃ苦手意識を持っていました。
ある日の練習でトレーナーの先生から、宝くじのCMの西田敏行さんの歌を例に、敢えてテンポから少しはみ出してゆったりたっぷり聴かしつつも大きな枠からははみ出さない、という高等スキルについて教えてもらいました。なんかすごい自由で、表現の幅も広がるし出来たら面白そうだなぁ!と思ったけれど、まず一定のテンポを保つところでオロオロしてる私にとっては、長い道のり…。
光が見えてきたのは、ドヴォルザークの交響曲第6番をやった時。ホルンのシンコペから曲が始まり、オーボエ、ファゴットと交互に折り重なる様に音楽が流れ出していくところで、出だしのアウフタクトからの一拍目が早いと指摘を受けました。では少しゆっくり…と思うと今度は遅いと言われた。なんでだ、テンポの問題だけではない…?
ポイントは”拍感”のようでした。
前のホルンと後のオーボエ、ファゴットは音形が違うので同じ1拍目でも拍感がちょっと違う。ホルンはコンパクトだけど、オーボエとファゴットは少し幅広めに取るのがここでは良いのだそう。
この”拍感”を音形や場面に合わせて変化させると、音楽により自然な流れが生まれて面白い!更に、拍感を周りと合わせるとテンポも合ってくるという不思議!逆にいくら正確なテンポで吹いても、拍感が合わないとずれてしまうことも…。
今までただただ苦手と思っていたテンポですが、拍感という概念を手に入れて少し克服できた気がします。とはいえ、まだまだ使いこなすに至っていないので努力あるのみ!西田敏行さんに追いつけ〜!

フォイヤーで、特に印象に残っていることは?

オブリガート事件ですね。
それは私が大学3年の夏、ベートーベンの交響曲第8番をやった時のことでした。
ベト8はファゴットのメロディがあまりない曲で対旋律(オブリガート)が多かったのですが、当時の私にとっては「オブリガート?何それおいしーの?」という感じで、そこまで重要なものとして捉えていませんでした。練習でも何回か捕まり直されたけれど「ま、いっか!」とあまり深く考えていなかった。
そんな時、事件は起きました。
練習の合間の休憩時間、団員達と缶コーヒー片手に談笑をしていました。
そこに、コンマスの先輩がコンビニに行く道すがらやってきて「オブリガートはファゴットの真髄だよね!」と爽やか笑顔で言い去って行きました。
はじめは「???」という感じでしたが、”真髄”とまで言われてしまえば向き合わない訳にはいかない。私の負けず嫌い根性に火がついた。
オブリガート…お前はなんなんだ…!そこから私とオブリガートとの長い闘いが始まったのでした。

演奏会チラシのデザインをする時のこだわりは?

フォイヤーでのデザイン作りはなかなか大変です。1ヶ月くらいほぼ引き籠りで制作したり、数十案出した結果全てボツになったり、イタリア旅行中に夜な夜な制作したり、制作が間に合わずオール明けで会社に行ったり、かといえば一晩で完成してしまうなんて事もあるんですけど…とにかくデザインへのこだわりが強く、生半可なものを世に出すことは許されません(笑)
例えば、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」の演奏会でのデザイン制作の場合。デザインを作る時は最初にテーマ・コンセプト決めます。今回のテーマは迷う余地なく”新世界より”と”チェコ”でした。とはいえ、なかなか漠然としたテーマですぐにイメージは出てきません。
そこでまずはインプット!テーマに関連する情報をひたすら貪り集めます。「新世界より」の制作時の時代背景、ドヴォルザークの人物像、生まれ育った環境や影響を受けた人物、チェコの文化・芸術、彼と同じ時代に生きた画家の作品…などなど。
そしてデザインに落とし込む要素を選び、いくつか案を出していくのですが…今回はここで2週間ほど悩みました。
この曲には、ドヴォルザークがアメリカに渡って出会った「ネイティブアメリカンの文化」や「黒人霊歌」の影響が少なからず含まれており、実際に多くの解説文でもその事に触れられていたので、どちらかを起用しようと始めは考えていました。が、ドヴォルザーク自身はこの曲について、これらの影響は受けたが引用はしていない、自分は故郷チェコを想って作ったのだ!と主張しており、どちらかの要素に偏らせることは作曲者の意図に反するなと思い踏み留まりました。ではチェコ一色にしてしまうか?でも、この曲から自分自身が感じ取ったネイティブアメリカンの音楽や黒人霊歌の要素もどうにか取り込みたい...。
この全くテイストの異なる3つの文化をどう融合させようか…?夜な夜なパソコンを眺め、何かヒントは無いかとググりまくる。そしてチェコ人でアール・ヌーヴォーを代表するデザイナーでもあるミュシャの、4人の女性が並んだ作品が目に留まり、これがヒントになりました。別々のテーマ(例えば春・夏・秋・冬など)を4人の女性として表現しながら、1つの大きなテーマ(例えば四季など)で括られ作品として完成している。このアイデアを頂こうと決めました。こうして「ネイティブアメリカンの文化」「黒人霊歌」「チェコ」という3つの要素を3人の女性で表現する、という今回のデザインが生まれました。
そしてもう一つ、加えたかった要素が「太陽」でした。これは、恐らくこの「新世界より」という曲を私たち日本人にとって馴染み深い曲にしたきっかけでもあり、団員たちの思い入れが特に強い第2楽章をデザインから感じ取ってもらいたかったためです。余談ですが、私はこの「太陽」を敢えて夕陽とも朝陽とも見えるように描きました。なので、どうぞ第2楽章の好きなところを頭の中で流しながらこの「太陽」を眺めて頂けたら幸いです。
長々と語ってしまいましたが、当団では演奏はもちろんのこと、実はこうしたデザインやパンフレットの文章も団員ひとりひとり思いを込めて作っています。ぜひ今後は、そのあたりも注目して見てみてくださいね〜!

1週間の生活、どんな感じ?

デザイン制作期間中は、寝ても覚めても、仕事してても(笑)頭の中はデザインのことばっかり。通勤電車や昼休憩もひたすら情報収集やアイデア出しに費やします。この期間は楽器の練習も若干怠ってしまっているかもしれません…ごめんなさい…(笑)